# キーボードの話 この記事は [一休.comのカレンダー | Advent Calendar 2023 - Qiita](https://qiita.com/advent-calendar/2023/ikyu) の記事です。 僭越ながらトップバッターを務めさせていただきますが、後続が投稿しやすくなるよう初日は**ゆるく**キーボードの話をしようと思います。 プログラミングの話は後日に改めて投稿するつもりです。 ## 昨今のキーボード市場 プログラマが好んで利用するキーボードの最高峰といえば Happy Hacking Keyboard (HHKB) に代表される静電容量無接点方式のキーボード、というのが私にとっても過去10数年のイメージでした。SICP の翻訳でも知られる和田英一先生が、ハッカーにとってのキーボードをカウボーイにとっての鞍となぞらえて語られた談話はあまりにも有名です。 - [Happy Hacking Keyboard | 和田先生関連ページ | PFU](https://happyhackingkb.com/jp/special/dr_wada/) その一方、市場でも多く流通している別の作りのキーボードにいわゆる「メカニカルキーボード」があります。 メカニカルキーボードといえば、もしかすれば、カチャカチャと安っぽい音がするキーボード的なイメージがあったかもしれません。ところが昨今はその品質が飛躍的に向上し、さまざまなバリエーションのキーボードが手に入るようになってきました。プログラマの我々が使っても「お、これはいいんじゃないか」と思うようなキーボードも増えてきていて、なかなか面白い市場になってきています。 メカニカルキーボードの品質が向上している要因は色々あるようですが、やはり印象深いのは、ドイツの Cherry 社が製造・開発していた安価で丈夫なキースイッチの特許が10年ほど前に切れてオープン化されたことにより、Gateron などバラエティに富んだ高品質なキースイッチを製造・供給するメーカーが出てきたことでしょうか。 キースイッチといえば赤軸、茶軸、青軸と呼ばれる Cherry MX 互換キースイッチを想像される方も多いと思いますが、昨今はキースイッチは無数にあり、その表情はさまざまです。はい、そして私の自宅にもキースイッチが無数にあります。 ![[IMG_0260.jpg]] もとい [世界のキーボード歴史 - Self-Made Keyboards in Japan](https://scrapbox.io/self-made-kbds-ja/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%89%E6%AD%B4%E5%8F%B2) を見ると「Gateron 初の GB (Group Buy)」とあるのが 2015年ころです。この前後から自作によるカスタムメカニカルキーボードが盛り上がってきて、それをより一般のライトユーザーにも届けることを目的とし、前述の高品質なモダンキースイッチを搭載した完成品のメカニカルキーボードを販売するメーカーが色々と出てきたのがここ数年、という流れだと思います。 さらにこの文脈で 2023年にエポックメイキングだった出来事としては、静電容量無接点方式の雄である HHKB ブランドから、新たに 「HHKB Studio」という名前でメカニカルキーボードが販売されたことでしょう。 - [Happy Hacking Keyboard | Studio | PFU](https://happyhackingkb.com/jp/products/studio/?gad_source=1&gclid=Cj0KCQiAgqGrBhDtARIsAM5s0_na3RLBzqJmVTskURP7hUVLyy-RTx40oWnM3l-qSdOGrzoYW4NAdfQaAorjEALw_wcB) HHKB Studio は静音リニアのキースイッチを採用しており従来の「カチャカチャ音がするメカニカルキーボード」の真逆をいく「しっとり静かで Thocky な」打鍵感を実現したキーボードになっています。はい、私ももちろん持ってます。 ![[IMG_0156.jpg]] 今回は会社のアドベントカレンダーの記事ということで暗にプログラマでも使いやすいよ、というキーボードを紹介していきますが、昨今メカニカルキーボードは PC ゲームの文脈でも大きく進化を遂げていますね。Razer のような有名どころのゲームハードウェアブランドも、先鋭的なメカニカルキーボードを発表したりしています。 ···というわけで、私が実際に使ったキーボードを中心に、おすすめも含めて定番どころを少し紹介していこうと思います。 ## 静電容量無接点方式 まずは静電容量無接点方式のキーボードから。静電容量無接点方式のキーボードといえば「コトコト」という静かめで気持ちの良い打鍵感が特徴的です。かつ、名前の通り無接点方式であるため打鍵を続けても劣化が少なく、耐久性が高いとも言われています。 静電容量無接点方式のキーボードは、私が知る限りそれほど多くありません。 その少ない中でも以下の御三家がやはり定番どころでしょう。 - HHKB - REALFORCE - Niz HHKB や REALFORCE は国内でも定番のキーボードなのでご存知の方も多いと思います。 私も HHKB は HHKB Professional Hybrid Type-S をよく使っています。 ![[IMG_0258.jpg]] Niz は中国のメーカーが製造しているキーボードですが、同じ静電容量無接点方式でも HHKB や REALFORCE ともまた違った病みつきになる打鍵感を持ってます。どちらかといえば HHKB や REALFORCE が高級、Niz がカジュアルという感じでしょうか。 押下圧が 45g の HHKB に対して、Niz の押下圧は 35g と軽く、人によってはより軽く打てる後者を好む方も多いでしょう。 私も Niz Atom68 を持っていて、よく使っています。(手が何本あるんでしょうね?) HHKB Type-S は定番ですが、Niz もいいですよ。 Niz の良いところはもう一つ、キーキャップが Cherry MX 互換で、広く流通しているキーキャップと交換して自分なりにカスタムできるところです。 一休のソフトウェアエンジニアの同僚を見ていると、社内では REALFORCE を使っている人が一番多いようです。入社時にキーボードやマウスなど仕事で使う周辺機器は個々人が好きなものを選んで購入するようになっているのですが、REALFORCE を希望する人が多かったです。次いで HHKB でしょうか。Niz は私ともう一人の二人が使っています。 ## メカニカルキーボード さて、メカニカルキーボードです。まずはノーマルプロファイルのキーボードから。 薄型のロープロファイルキーボードについては後ほど。 今回のメカニカルキーボード紹介の文脈で言うと、日々さまざまなメーカーから色々なキーボードが発売されていてとてもではないですが全ては紹介し切れません。あくまで私がよく使っているものから紹介しますと - Nuphy - Melgeek - Keychron - KiiBOOM あたりが、その定番ということになります。うち、Nuphy と Melgeek の二つを紹介します。 ### Nuphy Halo シリーズ 何かおすすめのメカニカルキーボードある? と聞かれた時に必ず紹介しているのが Nuphy の Halo シリーズです。私は Halo 65 を **4台** 使っています。え? 見た目も可愛いです。 ![[IMG_0254.jpg]] Nuphy の Halo シリーズは、Nuphy が Gateron から OEM を受けているオリジナルキースイッチの中から好みのキースイッチを選択して購入することができます。(もちろん、自分で後から交換することもできます!) このうち定番の Night Breeze スイッチと Nuphy Halo シリーズの筐体の組み合わせは抜群で、安定した押下感と、適度な押下距離、気持ちのよいサウンドの三拍子で打鍵を楽しませてくれます。 また、スペースバーもオリジナルの作りになっており、シリコン製の静音ダンパーが装着されています。Halo シリーズのスペースバーの打鍵感の良さは唯一無二で、 Nuphy のキーボードの特長になっています。 Night Breeze はとても良いのですが結構な音がしますので、オフィスでは Kailh Midnight Pro Silent という静音タクタイルスイッチに交換して使ってます。これも気持ちが良いです。 ··· タクタイルってなんですかあ? いやあ、一つ一つの用語を丁寧に説明していくつもりでしたがキリがないので、すみませんがもう開き直って書いていこうと思います。 ### Melgeek Mojo シリーズ 誰にでもおすすめしやすい Nuphy に対して、こちらはちょっと見た目が奇抜で、見た目が気に入るならどうぞ、というキーボードです。 実は個人的な利用率でいうと、Nuphy よりも Melgeek をもっぱら使っています、と言うよりも常用しているのが Melgeek Mojo Vaporwave です。 ![[IMG_0255.jpg]] Nuphy のキーボードは、筐体の素材に剛性感のある中身の詰まった重ための素材が使われてていてそれはそれで良いのですが、こちらの Melgeek Mojo シリーズは、筐体自体はプラスチックであえて空洞を残しています。その中にレイヤリングして打鍵ショックを吸収する素材や反響を抑える静音ダンパーなどを重ねてあります。 このレイヤリングで色々な素材を重ねつつガスケットマウント方式を採用するのが、昨今のメカニカルキーボードの定番方式になっていると思われます。ガスケットマウントは、ガスケットと呼ばれるクッション材でキーボードの基盤を浮かせて取り付ける方式で、これによりキーを底打ちした時に基盤辺のレイヤーが下に沈見込み、打鍵時のショックを吸収する効果があります。要するに長時間打っていても指が痛くならない。 スイッチは Gateron に並ぶトップブランドの Kailh から OEM 提供を受けた、オリジナルの Kailh Box Plastic です。プラスチックという名の通りプラスティッキーな打鍵感ですが、それでいて心地の良い粘り気のようなものがあり中毒性があります。キースイッチの形状も独特なものを採用していて、全体的に打鍵がとても安定し、ミスタイプが減ります。競技プログラミングの本戦など素早く正確な打鍵が必要になる場面ではいつもこのキーボードを使っています。 Melgeek の Mojo シリーズは Vaporwave の他にもピンク色の Christian など **合計 4台** 所有しています。(何か問題でも?) ## 分割キーボードは? こうしてキーボードについてあれこれ話していると必ず、分割キーボードの話になりますね。 分割されてないキーボードを長時間打っていると背中を丸めた姿勢になりやすく、人によってはそれで腰や背中、肩周りの筋肉が緊張してしまうことがあるようです。 私は幸いにしてその点で悩まされることはないので分割キーボードは使っていません。 が、最近は組み立て済みカスタムキーボードにも分割のものも出てきていますし、のちに少しだけ紹介するフルカスタムの自作キーボード界隈では **大体のキーボードが割れてます。** ## ロープロファイルのキーボード 薄型のロープロファイルキーボードも、だんだんと特徴的なものが出てくるようになってきました。 特に Nuphy の Air シリーズは人気なので、見たことがあるという方も多いかもしれません。 ロープロファイルキーボードは携帯性に優れているので、私も外出時や、オフィスでフリーアドレスで仕事する時によく使っています。MacBook Pro の組み込みのキーボードの上に載せて使えるようになっています。 ![[IMG_0248.jpg]] ロープロファイルとはいえ打鍵感はいずれも上質なのでノーマルプロファイルよりも押下距離が少なくて済むキーボードを使いたいという方で、これをデスクトップ用のキーボードとして採用してる人もちょいちょい見かけますね。 ### Nuphy Air V2 シリーズ Nuphy Air シリーズはロープロファイルなモダンメカニカルキーボードの雄と言っても良いでしょう。 ![[IMG_0256.jpg]] 最近全ラインナップがバージョン2 (V2) にアップグレードされて、内部構造含めて刷新されました。以前の V1 にはなかった内部のレイヤリング素材が採用されており、キーキャップもより上質なキーキャップに変更されています。キースイッチは、やはり Gateron からの OEM のオリジナルスイッチが多数選択可能です。ロープロファイルながらタクタイルスイッチもあります。 なお、私は Air シリーズは V1 も含めると **5台** 所有しています。 もはやアシュラマンでも手が足りません。 ### Lofree Flow Lofree Flow は界隈では有名ですが、まだあまり知名度は高くないでしょう。 ![[IMG_0257.jpg]] しかしロープロファイルキーボードで初のガスケットマウント構造を採用しており、キースイッチも、Kailh からの OEM のオリジナルスイッチを搭載していて、その打鍵感は目を見張るものがあります。 Nuphy Air シリーズも打鍵感は良いのですが、Nuphy の方はキーボードらしい打鍵感という感じで意外性はそれほどありません。一方の Lofree Flow は非常に特徴的で、静音スイッチを採用しているわけでもないのに、静かで上品な打ち心地になっています。好みが分かれるところだとは思いますが、初めて打ったときは「ロープロファイルでこの打鍵感とは···」と驚愕したものです。 ## 自作キーボードほか ここまで記事を読んでいただいてありがとうございます。オタクの語りを聞いてもらえるほど喜びはない。 メカニカルキーボードの説明を読んでいただくとなんとなくお分かりの通り、メカニカルキーボードの部品はその多くが交換可能になっていて、カスタムできる余地が非常に大きいです。 というのも、先の歴史の過程で見てきた通り、元はと言えばキーボードを自分で作る、というところからその隆盛が始まっているからですね。その流れの中で生まれてきた部品を調達しつつ、オリジナル筐体の製造を組み合わせてパッケージングしているのがここまで紹介したキーボードブランドがやっていることだと思います。 一方、自作コミュニティの方も変わらず活発に皆さん活動されています。 自作キーボードのコミュニティイベントを見にいくと、カラフルで面白い形をしたキーボードを多数見かけることができます。 私も何台か自作のキーボードセットを持っていますが、フルカスタムしたものはもはや世界に一台のキーボードになりますのでその所有感の高さはなんともいえないものがあります。 自作キーボード愛好家の皆さんがどんなキーボードを作っているか興味がある方は、以下の YouTube をご覧ください。 [天下一キーボードわいわい会 Vol.4 参加したので、見てきたキーボード全部レポートしてみた! - YouTube](https://www.youtube.com/watch?v=DND4XOXlkQM&ab_channel=%E3%81%B1%E3%81%B1%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%81%AE%E8%B6%A3%E5%91%B3%E3%81%AE%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%80%82%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%80%81PC%E3%80%81%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%AA%E3%81%A9) 今回はアドベントカレンダー向けの記事ということでニッチな話題には触れませんでしたが、他にどんなメカニカルキーボードがあるの? ですとか、キースイッチについてももっといろいろ見てみたいんだけど! という方には以下の二つの YouTube チャンネルがおすすめです。打鍵感のレビューなどもありますので、ぜひ音を出して、楽しんでみてください。 - [Daihuku Keyboard - YouTube](https://www.youtube.com/@DaihukuKeyboard) - [Keeb Taro - YouTube](https://www.youtube.com/@KeebTaro) ああ、そういえば一つ大事なことを書くのを忘れていましたね。**メカニカルキーボードの沼はとても深いです。** ![[IMG_0259.jpg]]