# Sense of agency(行為主体感)とは
Sense of agency(センス・オブ・エージェンシー:SoA)は、日本語で「行為主体感」と訳される心理学や認知科学の専門用語である。簡単に言えば、<mark style="background: #FEF19AAB;">「今この行動を起こしているのは、他の誰でもない自分自身である(自分が意図してやっている)」という主観的な感覚</mark>のことである。
例えば、テーブルの上にあるコップを自分で持ち上げる時、私たちは当然のように「自分が腕を動かしてコップを持った」と感じている。このように、自分の意志と実際の行動が結びついており、自分が行動の源(コントロールの主体)であると感じられる状態が、行為主体感が正常に働いている状態である。
## 催眠における「行為主体感の低下」
催眠現象を科学的に解明する上で、この行為主体感は非常に重要なキーワードとなる。
例えば、「腕が風船で上に引っ張られて、勝手に持ち上がります」という暗示(直接観念運動暗示)を与えられた際、参加者の腕は実際に上へと持ち上がる。客観的に見れば参加者自身の筋肉が動いているのだが、参加者本人は「自分の意志で動かしたわけではない」「腕が勝手に動いた」という不思議な体験を報告する。
このように、行動自体は起きているのに「自分がやっている」という感覚だけがすっぽりと抜け落ちてしまう現象を、催眠研究では行為主体感の低下(または変容)と呼ぶ。専門家たちの間でも、「多くの参加者が行為主体感の低下を経験する」という点は共通の見解として広く合意されている。
## 各理論は行為主体感の低下をどう説明しているか
催眠中にこの行為主体感がなぜ失われるのかについて、論文内で紹介されている主要な催眠理論はそれぞれ異なるアプローチで説明を試みている。
- [[Cold control theory(コールドコントロール理論)]]
行動を起こすこと自体(一次的な思考)には影響はないが、その行動を「自分の意図によるものだ」と客観的に認識・評価するための高次思考(メタ認知)がバイパスされる(機能しなくなる)ため、自分がやっている感覚が失われると説明する。
- [[Sociocognitive theories of hypnosis(社会認知的理論)]]
催眠という特殊な状態のせいではなく、参加者が「催眠とは自分の意志とは無関係に動くものだ」という期待や役割を持っているためだと説明する。反応の原因を自分ではなく「催眠術師や催眠そのもの(外部)」に帰属させる(結びつける)ことで、結果的に行為主体感が変化すると考える。
- [[Neo-Dissociation theory(新解離理論)]]
人間の意識が二つのシステムに分裂し、その間に「健忘の障壁」ができると仮定する。個人の意志を司る通常の意識から、暗示を実行する機能が切り離されて背後に隠れてしまうため、自分でコントロールしている感覚が減少すると説明する。